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ワークショップの記録

第一期(基礎編) 第1回「楽器を知る、聴取を知る、可能性を知る」

日時:2018年10月14日(水)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

14日のワークショップ第一回は、初回と言う事もあり、ピアノの構造等の基本事項から、今後取り上げる内容を一通りご紹介しました。ピアノ調律師三浦明道さん、ピアニスト篠田昌伸さんにも来ていただきました。初回なので、講師、受講生ともにまだ硬さがありましたが、これで様子がわかりましたので、次回以降、よりうまく進行できると思います。反省事項もあり、改善できればと思います。特に、聴講の方が、ピアノの内部等が見にくい、という件に関しては、次回以降、鍵盤、内部を俯瞰的に撮った映像をプロジェクターで投影しながら進めようと思っています。息の長いプロジェクトです。皆さんと共に、このプロジェクトをより良く育てていく事ができれば幸いです。次回以降も、どうかよろしくお願いいたします。

 

【庄野進によるレポート】

最初は様々なバックグラウンドをもった受講生の受講の動機を含む自己紹介から始まった。また、前日のオープニングイベントの感想が語られ、伊藤祐二からは、特殊奏法の実際を知ることの重要性が強調された。 

実際のワークショップは伊藤祐二による本プロジェクト全体の説明と井上郷子によるワークショップの進め方の説明などを以って開始された。次にプロジェクトのメンバーである調律師、三浦明道が紹介され、彼によるピアノの構造の説明がなされた。 

ピアノは基本的には鍵盤を叩くことでハンマーが弦を振動させるて音を出すのであるが、それだけでは耳に聞こえず、響板に振動が伝わって初めて充分な音となる。響板はスプルースなどの木材の一方向に木目が揃ったものが使われるが、傷つき易いので扱いに注意が必要である。ピアノの弦の振動は駒を介して響板に伝わる。弦の一方の端は亜グラフを通してプレートに固定されている。ピアノのメーカーや型式によって、弦の張り方や長さが異なるが、弦の長さの1/8のところをハンマーが叩くようになっている。三浦は鍵盤の部分を引き出して、ダンパー(繊細なので痛めないよう注意が必要)や鍵盤のアクションなどの説明を行なった。弦の張り方に関しては弦の交差、ブレイスの構造がメーカーや型式によって異なるため、プリパレーションや内部奏法の際に演奏不可能なケースがあることも説明した。低弦の巻線は銅を巻きつけている。 

ハープシコードの場合、中音全律などの整律を奏者自らが行うため、楽器の内部に接近し構造を理解することは容易であったが、ピアノの場合、整律は調律師にまかせ、いわばブラックボックスとして捉えて演奏に集中することができるので、内部構造を知らずに済ませることができた。しかし、クラスターやグリッサンドなどはともかく、内部奏法やプリペアード・ピアノとなると、内部構造の理解なしには演奏不可能なのである。したがって受講生からはいくつかの質問が出された。ウナ・コルダ・ペダルの原理については、同一音の三本弦の一本を外すことで音量を弱める作用があることが説明された。ダンパーについては、高音域にはないこと、ソステヌート・ペダルの説明も加えられた。プリペアした後に整律をするかどうかについては、基本しないと説明され、プリペアする際に、竹、アイスキャンディの棒を使って弦間を広げて素材を挟む仕方も説明された。銅巻線へのプリペアは、弦の間に物質が詰まってしまう危険性があり、十分注意する必要があることも指摘された。そもそも、弦は汗にも弱いので、事前に手をよく洗う必要があるとの指摘もあった。 

休憩を挟んだ再開後は、次回からのワークショップで扱う拡張奏法の実例を実習した。最初はヘンリー・カウエルのクラスターで、指、拳、掌、前腕、肘などを使った奏法が行われた。次いで、ニコロ・カスティリオーニの『チアミンの谷』における、無音で押された鍵盤と、他の鍵盤を演奏することで生じるハーモニクスが演奏された。さらに、カウエルの『エオリアンハープ』における、ストリング・ピアノの演奏も行われた。無音で抑えられた和音が左手で、右手はピアノ弦を直接かき鳴らすというものである。弦の横方向へのグリッサンドとともに、弦の縦方向に擦る奏法も紹介された。 

ミュートの実習では、手でピアノ弦を押さえ、鍵盤を叩くが、手の位置、抑える強さにより、音色が変化することも体験された。軽く押さえた場合に位置を変えると倍音構成が変化することの説明が伊藤よりなされ、それを聞くことの重要性が指摘された。また金澤健一の金属のオブジェの演奏体験も紹介され、ゴムのバチで擦ると炭酸カルシウムの粒子が躍り、倍音構造に応じて模様をなすことも紹介された。これらは、今回のテーマの一つ「聴取を知る」に応じたものであり、さらに音叉を響板で増幅し、2つの周波数の音叉を同時に鳴らして、生じる唸りを聞く体験もなされた。 

最後に、プリペアード・ピアノのプリペアについて、使用する竹の棒の使い方や、弦の表層に紙を置いて弾く奏法、弦を縦方向に擦る奏法、弦を叩く奏法など実習された。これらは拡張奏法の「可能性を知る」ものであった。