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ワークショップの記録

第一期 第2回「先駆者、ヘンリー・カウエルに学ぶ」

日時:2018年11月18日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

ワークショップ第2回が終了しました。

13名の受講生の皆さんの集中度の高さには圧倒されます! 予定の3時間をオーバーするほど力の入ったワークショップとなりました。カウエルの「マノノーンの潮流」での左手の肘を使ったクラスターの奏法、ピッチをしっかりと出し、クラスターの密度を保ち、豪快かつ柔らかい音楽表現をするのは、なかなか難しく、受講生の皆さんも少々苦労されていたようです。「エオリアン・ハープ」「バンシー」での内部奏法では、目印に使用する粘着シールの選び方と使い方から、実際の演奏まで。今度は本当に繊細な表現です。

今回も多くの聴講の方にご参加いただくことができました。前回の反省から、ピアノの鍵盤と内部をプロジェクターで投影しました。とても良く見えるようになったと好評でしたので、次回以降もこのスタイルを続けます。

次回はいよいよ、ケージのプリペアドピアノ作品に取り組みます。プリパレーションにかかわる、正確な情報、膨大なノウハウ、経験を、どのように的確にお伝えしたらいいか、考え中です。いずれにせよ、そうした事は、“音楽”の為にある事なのですから、本末転倒、あるいは、“ただの情報”になってしまわないようにしたいと考えています。息の長いお付き合いをお願いします。

 

 

【庄野進によるレポート】

今回は、第2次大戦後の現代音楽、そしてジョン・ケージに繋がる先駆者としてのヘンリー・カウエルの内部奏法を学ぶ。伊藤祐二によるカウエルと彼の作品の特徴の解説があり、ニューグローブ音楽事典の要約が資料として添付された。 

最初に取り上げられたのは、トーン・クラスターの作品『マノノーンの潮流』である。クラスターの記譜法の説明があり、両端の音の間が埋められたものは、その間のすべての半音が同時に押される。それに♭または♯がついている場合は黒鍵のクラスター、ナチュラル記号がついている場合は白鍵のクラスターである。この曲では、1オクターヴと2オクターヴのクラスターが出てくるが、いずれも左手の、1オクターヴの場合は掌で、2オクターヴの場合は前腕で演奏する。クラスターの上下の両端の音を明瞭に出すことが重要である。それは右手で演奏される旋律に対する和音となっているからである。実習は、最初は左手のクラスターだけで、次いで右手の旋律も併せて演奏された。中間部で、黒鍵の「クラスターと白鍵のクラスターが交代しつつ順次演奏される部分でも、それらが旋律的な動きを作り出すようになっている。また左手前腕による半音階的なアルペッジオも演奏された。両端を明確にすることと、間に隙間、ムラを出さないようにすることに実習生は難しさを感じたようであるが、実習が進むにつれ、左手のコントロールがうまくいくようになり、クラスターが滑らかになっていった。最後に、『虎』のような作品では、拳で激しく打つクラスターがあることや、クラスターを正確に打つための道具(チャールズ・アイヴズのコンコードソナタで使用されたような)なども紹介された。 

休憩後は先ず『エオリアンハープ』が取り上げられ、記譜の説明がなされた。基本は、左手で鍵盤の和音を無音で押さえて、右手で弦をかき鳴らす。そのことで押さえた鍵盤の弦の共鳴だけが残る。記号としては、swはピアノ弦をかき鳴らす(スィープ)する、pizzはピッチカート、insideは弦の中程をかき鳴らす、outsideはダンパーの手前をかき鳴らす。前者は弦楽器でいうところのスル・タスト、後者はスル・ポンティチェッロのような音色となる。さらに曲の途中から指の腹でかき鳴らすのでなく、爪の裏でかき鳴らす奏法となる。弦をかき鳴らすには、押さえられた鍵盤の和音の周辺を狙えばあまり問題はないが、ピッチカートの場合には、正確に該当する弦を弾くために、目印をつける必要がある。その方法について詳しく説明がなされた。ダンパーに強く、粘着質の強い素材でマークすることは避けねばならない。前回のワークショップで指摘されたように、ダンパーは非常に繊細だからである。ラベル用のシールで、軽く留めることが推奨された。また、当該の弦の位置から離れた点から弦を見ると、角度があるため外す危険性があるので、なるべく弦に近い位置に目線を置くことが奨められた。実習生にとっては、すでに印がつけられたところを追うことで、比較的容易に演奏できていたように思う。 

最後に取り上げられたのは『バンシー』である。バンシーとはアイルランドのよく知られた妖精のことで、死を告げるとされている。奏者は基本的にピアノの湾曲した部分に立ち、専らピアノ弦を直接操作する。もう一人は曲中ダンパーを上げたままにする役割で、ダンパー・ペダルを踏み、できた隙間に詰め物をしておくことで代用できる。 

記譜法としては、R.H.(右手)、L.H(左手)の指示があり、AからLまでの12種類の内部奏法が説明されている。指の腹を使ってある音域の弦をかき鳴らす。同様にある音域の弦を上下に行ったり来たりしてかき鳴らす。同様に両手で上下にかき鳴らし、途中で交差する。それを指ではなく掌全体を使って行う。指の腹、あるいは爪で一本の弦を縦方向に擦る。同様に3弦、5弦を擦る。同様に擦るが爪で擦る。爪で擦り始め、途中で指の腹に変える。両手を使い、記された2音の間のすべての弦を同時に擦る。指の腹でピッチカートのように弦を弾く。これらが駆使されたのがこの作品であった。 

実習生は、説明とともに比較的直感的に理解しやすい記譜法もあって、奏法によって異なる音色の変化と、全体の表現に集中して演奏できていたようだ。