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ワークショップの記録

第一期 第4回:「ジョン・ケージ/プリパレーション2 その他の拡張された奏法」

日時:2019年1月13日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

ゲストプレイヤー:工藤あかね(ソプラノ)

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

ワークショップ第4回は、前回に引き続き、ジョン・ケージの作品を扱います。前回、プリパレーションの基礎を学びましたが、まずは、その続きです。次に、その他の特殊奏法(拡張された奏法)の実習を行います。今回は、ゲストにソプラノの工藤あかねさんをお迎えしています。
まず、前回実習した「季節はずれのバレンタイン」に再挑戦。受講生の皆さんは、前回の録音も参考にして、今回のプリパレーションに臨みました。その結果、前回と比べて驚くほど良い結果となり、盛り上がりました。又、各グループの音が皆異なり、それぞれの魅力を発揮していました。受講生の皆さんは、プリパレーションの奥深さを知り、その入り口に確かに立った事を実感できたと思います。続いて、ゲストに工藤あかねさんをお迎えして、井上郷子講師と「18の春を迎えた陽気な未亡人」を演奏、実習。最後にラッキーな受講生が一名、工藤あかねさんとの共演を果たして(!)ワークショップは終了しました。今回も、多くの方に聴講に参加いただき、ありがとうございました。

 

【庄野進によるレポート】

今回は、前回行ったプリペアード・ピアノの復習として、受講生たちは、同じ『季節はずれのバレンタイン』に再度挑戦する。受講生がプリペアしている間に、聴講生に向け、前回のプリパレーション表の読み方が再度説明された。 

第1組のプリペアが終わった後、前回からどのような点を改善したかが報告された。ボルトの位置を直し音質を揃え、竹と木を区別できるようにしたとのこと。その後の演奏においても、タッチも前回より工夫されていた。このような経験を積むことが重要だということが分かる。伊藤祐二からは、プリペアの問題点として、倍音が少なくピッチを生かす仕方はケージの意図として正しいかという問題提起がなされた。 

第2組のプリペア中、聴講生の質問に、このプロジェクトの意図として、ホールの管理をする際のプロトコル、管理指標を最終的に提示できればと考えていることが伊藤より説明された。演奏前に、前回元のピッチが出過ぎて生音すぎる点を改善しようとしたこと、ボルトも同じものでなく違うものにし、ゴム、フェルトも変えてみた。演奏後の説明で、これらの点が出るようにしたことが説明され、響きに幅が出るようになった、ただ、Cの音をもう少し違うものにしたい、GE♭音が同じなので変えたいという反省もあった。伊藤からは、ボルトにナットを付けて重くしたが、緩い状態でサワリ音が出るのはまずいので注意すること、コインの音は良かったと講評があった。 

第3組のプリペア中、三浦より、聴力の一番緩い、弦の中程に物体を挟み、それを所定の位置にずらしても良いことが指摘された。また、聴講生から倍音の出る節のところに物を挟むべきかという質問があったが、そうではなく複雑な倍音が出る場所が求められているのではないかと、伊藤より回答があった。また、ソフト・ペダル(ウナ・コルダ・ペダル)の役割についての質問があり、井上より、ハンマーが打つのが2、3弦だけになる効果について説明があった。また、第3局の上のB音は、曲の途中で初めて出てくるが、エスプレッシーヴォの表情記号がついていて、構造的に重要な意味を持っているとの聴講生からの指摘もあった。また、記譜法は共通になっているかという質問もあり、定まっていないとの回答がなされた。 

改善点としては、5度の音程が出てしまったので、いかに複雑な響きにするかに苦心した、伸びる音は伸びるようにしたが、ピッチ感が出ると面白くないので避けたことなどが挙げられた。演奏後はプリペアした音同士の関係が良くなった、聞き手が求めるものを考えながらしたい、もっと打楽器的響きが欲しかったなどの感想が語られた。伊藤より、ボルトの倍音、ゴムの音などとても良かったと講評があったが、今回、最も優れたプリペアであったと思う。 

第4組は、前回欠席の受講生が参加したが、やはり、前3組に比べ、プリぺアはやや平板であった。それでも、倍音の出方はまずまずであった。ただ、木が途中で取れてしまい、音が変わってしまった。伊藤からは、コインに唸りが出てしまったことが指摘されたが、ミュート、唸り、高音の倍音のバランスが面白かったとの講評があった。 

休憩後は同じくケージの『18回目の春を迎えたすばらしい未亡人』が取り上げられ、井上郷子と工藤あかねにより演奏された。この作品はピアノ筐体の蓋、鍵盤の蓋はすべて閉じられ、指または拳(符頭がばつ印で記譜されている)で、ピアノ筐体の下部、鍵盤の蓋、蓋の上の部分、ピアノ筐体の蓋の上がそれぞれ叩かれる。いわば、筐体自体を打楽器として扱う奏法である。実習生は、この曲で使われるこれらの部分だけでなく、ピアノの他の箇所や内部の弦以外の部分などを叩き、蓋を開いたり、ペダルを踏んだりして、この楽器の響きを確認した。その後この曲のリズムを皆んなで辿り、さらに実際にピアノに向かって叩く実習を行った。最後にソプラノを加えた演奏も行われた。ただ、残念なことに、ソプラノはヴィブラートをつけて歌っていた。楽譜の冒頭のピアノの蓋を閉めて叩くことの指示と並んで、「民謡におけるようにヴィブラートなしで歌う」ことが指示されているので、それを守って欲しかった。ピアノの筐体を打つ即物的な音と、ヴィブラートのかかった声とでは違和感がある。ピアノという楽器と同時に、ベルカント唱法も脱構築するのがケージの狙いではなかったろうか。