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ワークショップの記録

第二期 第1回「図形楽譜と特殊奏法」

日時:2019年4月28日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

ワークショップは、新しい受講生の皆さん、第一期から継続して受講される皆さんと共に、第二期がスタートしました。又、今回も、多くの皆さんに聴講に来ていただきました。
第一回は、図形楽譜による演奏を実習しましたが、これは受講生の皆さんにとって、なかなか手ごわかったようです。演奏の自由度が大きい分、相応の経験と技術が要求されますし、一方で、すでに多くの経験と手の技術をお持ちの方は、それがかえって自由を縛っている様子も見受けられました。図形楽譜のように自由度の大きいものは、自分の中に、音楽上の、たくさんの引き出しが要求されますし、同時に、自分を縛っている音楽上、身体上の、“手癖”によりかかっていると、凡庸な結果になってしまいます。
湯浅譲二の「ピアノのためのプロジェクション エセムプラスティックⅠ」を題材に、何か月か準備期間を置いて、受講生の皆さんには、順次、演奏していただく予定です。
聴講の方より、図形楽譜についての本質的な質問があり、それも又、非常に有意義でした。
次回は、(新しい受講生の方を念頭に)第一期で扱った、プリパレーションの基礎をおさらいします。題材は、ジョン・ケージ、アーサー・グリーン、ダウエル・ウルフの作品を予定しています。ぜひ聴講にお運びください。

 

 

【庄野進によるレポート】

ワークショップに先立って、本プロジェクト全体(ワークショップ、作品リサーチ、ホールの現状と管理指標作品)に関して、代表の黒崎より紹介があった。次いで、作品リサーチ部門より、昨年度の文献講読(全米ピアノ技術者協会の実施要項の翻訳、A・ショックリーの『現代ピアノ』等)と、ピアノ特殊奏法作品の収集状況の説明があった。 

ワークショップでは、最初にハロルド・ボイエの霧の中の旋律が取り上げられ、音域が不確定なクラスターと旋律による楽譜の解釈について、参加者の演奏の試みがあった。続いて、ミヒャエル・フェッターの弦の戯れという極めて解釈の幅が大きい、図形楽譜が紹介された。この作品は専らピアノの弦を指や撥を用いて直接演奏する曲である。指示が少ないため、時間軸をどう とるかも含め、参加者に戸惑いがあった。ただし、これも完全に恣意的に演奏できるものではない。聴講生からは図形楽譜に関する根本的な問いもあり、初演当時の前提や、図形楽譜に対する作曲家の様々な立場の違い等、それ自体何回かのワークショップを必要とする問題であることが確認された。 

一柳慧のピアノのための音楽第2版は楽譜のみが提示されたが、何回か後での、受講生の挑戦の対象となる。最後に湯浅譲二のピアノのためのプロジェクション・エセムプラスティックの説明があり、弦を掻き鳴らす、重音(単音も可)のフレーズ、クラスター、ミュート等の特殊奏法を用いた、解釈が示され、受講生が12の断片の各々の図形の解釈を試みた。フレーズや、回路の解釈にはやや曖昧な点があり、その解釈について、議論があった。 

今回のテーマ「図形楽譜と特殊奏法」は、図形楽譜の本質的意義という先述した議論が指摘した問題と、図形楽譜が必ずしもすべて特殊奏法と結びつく訳ではないという問題をもっているように感じた。 

また、今回の受講生は、昨年度からの継続者と、新規の参加者とが混ざっており、保守に関わるピアノへのアプローチの理解に差があることで、実施上の難しさを抱えているようである。