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ワークショップの記録

第二期 第4回「パフォーマンス的な特殊奏法

日時:2019年7月14日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

前回のワークショップで、井上郷子講師が時計を見間違えて、3時間予定のところ、4時間を超えるワークショップとなってしまい、大変申し訳ありませんでした。にもかかわらず、受講生、聴講の皆さんが、最後までしっかりお付き合いくださったことに感謝!
あいにくの梅雨空の中、足をお運びくださった聴講の皆さま、ありがとうございました。
ワークショップは、第一回に取りあげた湯浅譲二作品の演奏で始まりました。これは、練習してくることが宿題(?)となっていたもの。受講生の皆さんは、相当しっかりと準備(練習)してきて下さり、力の入った演奏を聴かせてくださいました。又、一人一人、全く違う表現となっていて、とても興味深い発表でした。気になった点は、① 立つ、ミュートの弦を探す、マレットを持つ etc. 等の体の動き、そのフィジカルな動きにかかる時間が、“音楽の時間”に影響して聴こえる、あるいは、フィジカルな時間が、音楽の時間を支配しているように聴こえる時がありました。音楽の時間が影響されないように体を動かす、あるいは、フィジカルな時間を取り込んで、音楽の時間を作る、そういう意識が必要と思いました。
② どういう音楽にするか、という演奏者の意図が、不明確な時がありました。その打鍵、ピチカート、(etc.) それは強い音? 弱い音? はっきりした音? 曖昧な音? 響きはしばらく聴く? 次の音を重ねる? etc.
もちろん、まだ内部奏法に慣れる段階なので当然の状況ですが、ぜひ、もっと慣れて、奏法に気を取られる事無く、音楽を十分に楽しめるようになっていただければと思います。
次に、声を伴う作品にチャレンジしていただきましたが、これは、思った以上に受講生の皆さんにとってハードルが高かったようで、皆さん、恐る恐る、でした。普段、ピアニストは、声を出しませんものね。しかも、のど声の ゲー なんて! 失礼しました。でも、現代の表現では要求される事もあります。また、なぜそういう表現が要求されているのか、と考えてみる事も大切だと思います。
(PINK FLOYD というバンドの“Careful with That Axe Eugene”の「ぎゃー」は、伊藤の原体験です・・。)
さて、いよいよ次回8月11日は、受講生の皆さん(講師も参加)によるコンサートです。

 

 

【庄野進によるレポート】

最初に井上より、第5回両国アートフェスティバルの予告があった。また、第3期のワークショップの予告が伊藤からなされた。 

実習は、最初に第1回で取り上げられた、湯浅譲二の『ピアノのためのプロジェクション・エセムプラスティック1』の図形楽譜のリアリゼーションを、受講生が行うことから始まった。各々が種々の工夫を凝らしており、興味深かった。受講生の解釈の違いは作曲的なアプローチの違いのように思われた。なお、ミュートに関して井上より、ミュートする位置がピン近くでは効かないこと、鍵盤上で隣接した3音でも広くミュートの範囲を取らないと生音が出てしまうなどの指摘があった。 

休憩後はディーター・シュネーベルの『バガテル』が取り上げられた。この曲は声の発音を含む。「愛の歌」はb -g-acのハミングの反復に簡単なピアノパートが伴うもの。6番の「葬送行進曲」はヨーゼフ・ボイスに捧げられた曲であり、菱形にPaのような記号は喉から絞り出すようなうめき声を示す。その他、叫ぶ、ぶつぶつ言う、急に叫ぶなどの声の指示がある。ピアノパートは3度和音のゆっくりした進行の反復を中心としている。声を出すのは最初は難しくとも、慣れればうまくいく。 

次はモーリッツ・エッゲルトの『もし一つの国の一人の作曲家が、ソロ・ピアノのために1秒以下の60の曲を書いたとしたら』が取り上げられた。文字通り、1秒以下の短い断片が用意されるが、その中には、歌ったり筐体を平手や 拳で叩いたり、爪による高音域でのグリッサンド、ミュート、鍵盤を爪で引っ掻くグリッサンドとサイレンホイッスル、モーという音を出すおもちゃを鳴らすなどの拡張奏法が含まれるピアノパートと、その断片を示唆するタイトルが同時に語られる。楽譜と共にそのタイトルの訳が資料として配布された。なお、最後の曲ではピアノの蓋を閉じるアクションが求められる。その後5曲づつ実習が行われた。タイトルに応じた性格を軽妙に演奏するには、やはり習熟が必要と思われる。意外にホイッスルを鳴らすのに苦労していた。