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ワークショップの記録

第二期 第2回「プリパレーション中級編

日時:2019年6月23日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

前回時間切れとなってしまった、アーサー・グリーンの「7つの野生のキノコと1つのワルツ」のプリパレーションと演奏から始めました。
まず、最初のグループがプリパレーションを実施して演奏、次のグループは、新たにプリパレーションし直すのではなく、最初のグループのプリパレーションをさらに吟味して手直ししました。まず、一音ずつ吟味して手直し、一応の結果を得た後、曲中のフレーズを弾いてみてさらに吟味、手直しをしました。
その結果、驚くほど変化し、とても魅力的になりました。やはり、プリパレーションは時間をかけてじっくり吟味、手直しを積み重ねる必要があります。
井上郷子講師が、リサイタルで J・ケージの「ソナタとインターリュード」を取りあげた時には、まず、自宅のピアノでプリパレーションを十分詰めた上で、当日使うピアノを借りて(倉庫で)それを実施、当然、様々な変更を含む詰めを行い、それを再度自宅ピアノで詰め、当日、プリパレーションしましたが、それでも5時間かかりました。
又、国立音楽大学で、ケージの「プリペアドピアノと室内オーケストラのための協奏曲」を演奏した際も、同様の手順を踏みましたが、本番のプリパレーションは、朝から夜までかかりました。 ご参考までに。
次に、J・ケージの「危険な夜」を全員で手分けしてプリパレーションし、演奏しました。
とても楽しむことができましたが、プリパレーションの吟味とは別に、「演奏」が気になりました。25音に多様なプリパレーションを実施していますが、演奏してみると、魅力が足りません。この曲、もっと魅力的なはずです。それは、演奏の際のタッチが、“個々の音が魅力的に鳴る「スイートスポット」”をはずしているからです。
(受講生の皆さんの名誉のためにあわてて書きますが、その日実施したプリパレーションを一回だけ弾いた結果なので、当然それは無理な要求です。)
自分の打鍵(タッチ)の結果鳴っている音を聴きながら、プリパレーションされた「個々の」音が「それぞれ」特有に魅力的に鳴るように、手→音→耳→手→音→ とフィードバックして、タッチを探り当てていく必要があります。譜面をただ弾いているだけでは曲になりません。
(それはプリパレーションしていない曲、古典的な曲でも同じ事ですが。)
音楽はとても奥深いですね。その分、探求しがいがあります。

 

 

【庄野進によるレポート】

前回の続きで、A・グリーンの作品のプリパレーションを実施する。プリペアした後に演奏すると、プリペアした消しゴムが一つ飛んだ。それは薄い楔形のもので、そうならないように注意が必要である。また、ダンパーペダルを踏んでおかないと、ダンパーフェルトが切れてしまうので、十分に注意する必要がある。ゴムのプリペアでは、グリーン自身が指示しているように、高次倍音が出ないように、プリペアする位置を調整しなければならない。求められている音は「ボンゴドラムのような音」である。木ネジによるプリパレーションによって求められているのは「ゴングのような音」であるが、おおよその音高は保たれるものの、黒鍵によるペンタトニック・スケールを厳密に作ることは避けねばならない。ゴムも、木ねじのプリペアも、一端プリペアした後でパッセージを演奏してみて、それらの点をクリアしているかどうかを確かめ、再度調整すべきである。交差弦でのプリペアはなかなか難しく、ピンセットを用いたりして行うが、木ねじなどを下に落としてしまうことがある。今回も落としたが、その場合、厚紙を使って楽器の左側に移動させていき、一番左の空いた場所で拾うようにすれば良いとのことであった 

続いて、より複雑なプリパレーションの例として、ケージの『危険な夜』を取り上げる。この曲では25音にプリパレーションが施され、内12音には、異なった弦の間に2つの物体がプリペアされ、低音の5音では同一弦に2つの異なった物体がプリペアされる受講生は苦心しながら長時間にわたってプリペアを実習した。なお、この曲は6楽章からなるが、楽章毎に使われる音が限定されており、それによって性格づけが行われている。ついで演奏実習に移り、まず右手の2音による反復によって特徴付けられる第4楽章から始められた演奏後井上よりプリペアされた音の質への疑問が出され、実習生により修正の試みがなされた。使われる音が少ないだけに音の質が問われるのである。最終的には井上が調整したが、結果は深みのある音となった。次に取り上げたのは第6楽章である。この曲では、最高音の4音と最低音の6音のみが使われる。この特性を生かすためにプリパレーションの調整がさらに試みられた。このような、曲の構造的特性、プリパレーション、タッチなどの演奏法の関係を調整していく経験を積むことが重要であることがよく分かった。ついで第1楽章。この曲では、低音群と中音域の音が用いられる。フォルテッシモの音は強調されるのでもっと余韻があった方が良いかという反省もあり、さらに調整が試みられた。次いで第2楽章。中音域に集中し、ネジとワッシャー、あるいは隙間塞ぎとナット付きのネジのプリパレーションなど、特色ある音色が用いられている。これはまた打鍵の仕方を工夫すると効果が出る。第3楽章では、ウナ・コルダ・ペダルが指定され、それによって音色が変わることを確認した。ペダルをしっかり踏むことが重要であった。最後に初めから通して弾いて実習を終わった。