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ワークショップの記録

第二期 第5回「ワークショップ受講生による2台ピアノコンサート

日時:2019年8月11日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

ゲストプレイヤー:榑谷静香

 

◉プログラム

井上郷子、榑谷静香:ジョン・ケージ  《音楽の書》より
森川あづさ:ヘンリー・カウエル エオリアン・ハープ、 《3つのアイルランド伝説》よりマノノーンの潮流
多田亜佐子:ジョン・ケージ 季節はずれのヴァレンタイン
長谷川奈苗:ジョージ・クラム 真夜中のセレナーデ 第5番、第8番
小林このみ:ジョン・ケージ ホロコーストの名のもとに
山田剛史:ジョージ・クラム マクロコスモス第1巻 第1曲〜第4曲
木暮照美:近藤譲 クリッククラック
本橋亮子:モーリツ・エッゲルト もし、ひとつの国の出身のひとりの作曲家が、ソロピアノのためにものすごく短い60個の断片を作曲したらどうなるだろうか
川口慈子、伊藤明子:サルヴァトーレ・シャリーノ 二台のピアノのためのソナタ 第1曲
石本仁美:ヘンリー・カウエル 妖精の鐘、富士山の雪
筒井志歩:ジョン・ケージ 自然な大地
川浦義広、松波匠太郎:アラン・ショックリー wndhm(1785)

 

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

最初に、井上郷子講師と、ゲストの榑谷静香さんによる、J・ケージ「音楽の書」より第一部(2台ピアノ、プリパレーション)により、コンサートは始まりました。プリパレーションそのものの実施が困難な状況の中、2台のプリペアドピアノの作品が美しく演奏され、響きに満たされる、両国門天ホールが輝いている瞬間でした。
続いて13名の受講生の皆さんの演奏が続きました。皆、真剣な演奏で、本当に聴きごたえがありました。プリパレーションあり、内部奏法あり、腕を使ってのクラスターあり、etc. 様々な奏法が登場しましたが、誰一人として、その効果によりかかった、派手で“あざとい”表現や、“現代音楽っぽい”類型的な表現をすることなく、そこに自分の音楽を見出していこうと試行錯誤している姿勢が見られ、それが聴講の皆さんの共感を呼んでいたと思います。良いコンサートとなりました。
お盆の時期、又、厳しい暑さにもかかわらず、本当に多くの皆さんに聴講に来ていただき、ありがとうございました。受講生の皆さんも、演奏しがいがあったと思います。
コンサート終了後、簡単なアフターパーティーを持ち、聴講に来ていただいた方を含め、交流の時間を持ちました。
(パーティーが始まったその裏で、本ワークショップに常に出席していただいているピアノ調律師の三浦明道講師が、いつものように、ピアノ使用後のメンテナンスをしてくださいました。)
皆さん、ご苦労様でした。又、ありがとうございました。

 

 

【庄野進によるレポート】

これまでのワークショップの成果として、また、なかなか機会がない形態の2台ピアノのための作品のコンサートを、井上と搏谷静香及び受講生たちによって行う。ケージの2台のプリペアード・ピアノのための作品は、プリペアの規模も大きく、演奏機会があまりない。最初に取り上げるのはケージの『音楽の書』。井上と搏谷による演奏は、流石に経験に裏打ちされた見事なプリパレーションと演奏解釈であった。もちろん準備にも時間がかかるが、演奏後にプリペアを取り外すにもかなり時間を要した。 

次に第1期を受講していなかった受講生により、ピアノ一台でヘンリー・カウエルの『エオリアンハープ』と『マノノーンの潮流』が演奏された。ついで、ケージの『季節外れのバレンタイン』。次のジョージ・クラムの曲は、ワークショップで取り上げられたもの以外の作品「真夜中のセレナーデ第5番、愛8番」であったが、ハーモニクスの演奏が難しかったにせよ、比較的こなれた演奏であった。続くケージの「ホロコーストの名のもとに」もワークショップで取り上げていない作品であるが、プリパレーションと内部奏法(ピッチカート)はまずまずの解釈であった。 

休憩後、クラムの「マクロコスモス第1巻第1曲〜第4曲」が演奏されたが、多彩な内部奏法に挑戦し、こなれた解釈を見せてくれたが、チェーンの表層プリパレーションには苦労したようだ。続く近藤譲の「クリッククラック」はワークショップで取り上げられた曲ではなく、独自に演奏に取り組んだものである。拡張ピアノ奏法としては無音で鍵盤を押す奏法が用いられているが、これにより旋律線が微かな残響に彩られる繊細な演奏が要求される。次のエッゲルトの作品「もしも、一つの国の出身の一人の作曲家が、ソロ・ピアノのためにものすごく短い60個の断片を作曲したらどうなるか」は、ワークショップで取り上げられた作品であるが、断片の性格をよく捉えた演奏であった。 

さらに休憩後、サルバトーレ・シャリーノの「2台ピアノのためのソナタ第1曲」が演奏された。クラスターやグリッサンドを含む、軽やかなパッセージを息の合った演奏で聞かせてくれた。次はカウエルの「妖精の鐘、富士山の雪」。ワークショップで扱わなかった作品であるが、ピッチカートやクラスターが要求されるエキゾティックな響きを現出させていた。次いでケージの「自然な大地」。プリペアード・ピアノ曲であるが、ピッチの明確でない音や金属質の音などの対比がなされた演奏であった。最後はアラン・ショックリーの「wndhm」。2台ピアノのための作品であるが、プリパレーション、ピアノ弦をかき鳴らしたり、弾いたりと拡張奏法が駆使された作品を弾きこんでいた。総じて、第1期からの受講生たちは、その経験を生かし、演奏解釈と言える域に達しつつあるように思えたコンサートであった。