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ワークショップの記録

第三期 第1回「全く異なった発音法

日時:2019年10月13日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

台風19号の影響で、開始時間を遅らせ、無事終了する事ができました。残念ながら、交通機関の影響によって参加できなかった受講生もいらっしゃいましたが、困難な状況の中、聴講の方々も、いつもと同様にご来場いただき、ありがとうございました。(避難先からご来場いただいた方もいらっしゃいました。)いつもながらご支援いただき、感謝いたします。
ワークショップは、振動モーター、Ebow、オルゴールのムーブメントを用いた発音を実習しました。振動モーターは、例外的に、作品に基づくことなく、単に技術的にご紹介しましたが、5個のEbowが、相互関係の中で複雑に弦を響かせ、複雑な倍音、唸りを発し、Ebowを置き替えていく事によってその響きの変化を辿る、アルヴィン・ルシエ作品、オルゴールのムーブメントを弦の上で、空中で、ピアノのボディの表面で、様々に(指でドラムを回転させて)鳴らし、可憐で繊細な響きを演奏してゆくマリナ・ポレウヒナ作品に基づいて実習しました。
受講生の皆さんは、見慣れないEbowに好奇心を持ち、慣れないオルゴールの演奏を楽しまれていましたが、時間の不足などもあり、両作品ともに、今ひとつ作品の演奏に至れない状態で終わる事となり、少々残念でした。両作品ともに、まずは耳と心を開き、そこで鳴っている音の驚くべき繊細さと美しさを聴き出し、それに(奏者として)どのように関与するのか、を探りだしてゆく必要があるのですが(そこが楽しい!)、受講生の皆さんにとって「耳と心を開き、そこで鳴っている音を聴き出す」感覚をつかむには、まだ時間が必要なようで、耳と心の制度性の強さを甘く見た私も反省したところです。「音を聴く」事、が、それほど難しいとは・・・。
(それゆえに、これらの作品には(そして本ワークショップにも)存在価値があるとも言えるわけですが・・・。)

 

【庄野進によるリポート】

ワークショップ第3期が始まる。最初に本プロジェクトの目的や成り立ちとワークショップの位置づけ等についての説明があり、次いで第1期、第2期の概観が説明された。拡張ピアノテクニックの様々なアスペクトを、具体的な楽曲をとりあげることによって実習していく。第3期では、エレクトロニクスやコンピュータを用いたライヴ・エレクトロニクス作品、こまたのテーマに関する著作のある作曲家A・ショックリーを迎えて氏の作品を取り上げる。最後には受講生による作品制作発表および演奏を行う等の予定が示された。 

1回の今回のワークショップでは、これまで取り上げられてきたものとは全く異なる方法でピアノを鳴らす試みが実習される。最初に紹介されたのは、独特の発音法によるパフォーマンスやインスタレーション活動で知られる、すずえりさんの仕掛け。携帯やスマートフォンのヴァイブレータを用いて、ピアノ弦にそれを挟んで振動させたり、弦の先に付けたそのヴァイブレータをピアノ弦の上で自由振動させることで不規則な跳ねる動きで、複数の弦上を偶発的に叩くようにしたりするもの。弦に挟んだ場合は、弦の位置によって生じる倍音の変化や組み合わせの面白さを、耳で聞き分けていくことが必要になる。自由振動の場合は音域―中高音域が有効―により変化が異なる。 

次に、A・ルシエ(1931-)の電磁弦によるピアノのための音楽』(1995が取り上げられた。ルシエは長い細いワイアー上の音楽』(1972)で、50フィートのワイアーを張り、根元の両側に電磁石を付け、ワイアーの振動による倍音が刻々と変化するサウンドインスタレーションを作っているように、電磁石による弦の振動の不規則変化と倍音の変化を聞き取ることが重要な作品を作っている。今回の場合は、エレキギターのEBowを5つピアノの弦上に置き、それらが作り出す倍音やうなり等の音響現象を聞き取ったり、音程や和音、クラスターを作ったり、ユニゾン弦に置いて、僅かなずれから生じるビートを聴いたりする。ダンパーは終始あげたまま。 

最後は、マリナ・ポレウーキナの物のためにfor thing』(2013)。 

この曲は、「2つのオルゴールとピアノと録音機材のための曲」である。オルゴールはプラスティックのケースからはずし、メカニズムのみを用いる。録音は音質を問わないので、携帯電話で構わない。ピアノはグランドでもアップライトでも良い。今回はグランドピアノを使用したので、オルゴールの共鳴体として以下の部分の表面を使用する。a)オルゴールをチューニングピンの近くの弦の部分に置く。C4以上の高音弦を使用。b)鍵盤の蓋、c)譜面代にそれぞれ置く。 

オルゴールで出す音の多さ―2音からフルに回転させるまで―の指示やオルゴールを表面に付けて鳴らし、その後空中に保持するというような表面と空間の位置に関する指示、弦の上を滑らせたり、少し表面に触れるようにしたりする指示などが、図形楽譜に示されている。曲の最後には、オルゴールの速い演奏の40秒間の録音がある。テンポの指示は4つあるが、速度自体は奏者に委ねられており、実習でも様々なテンポが試みられた。