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ワークショップの記録

第三期 第2回「古典的なエレクトロニクスとピアノ

日時:2019年11月3日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

次回(12月22日)「最新のライヴエレクトロニクスとピアノ」を扱う前に、今回は、コンピューターも、デジタル機器も無かった(一般的では無かった)時代の「古典的な」エレクトロニクスとピアノの作品を実習。それによって、技術の進歩によって、大きく変わった点は何か、全く変わっていない点は何か、を考えることができると思います。
最初の G. Scelsi:AITSI(1974)は、技術的な問題から、理想的には鳴らせませんでしたが、(コンサートと違い、事前準備に限りがありますので、ご容赦ください。)仕組みの概要をつかみ、演奏を実体験していただきました。
次に、伊藤祐二:La Poetique de l ‘Space(1983)を実習しました。35年くらい前のハーフインチのテープに、8トラック(ステレオ4チャンネル)で記録された音(プリパレーションしたピアノの音が素材)を再生しての実習です。古すぎて、そのままでは使えないテープをGok Sound の近藤さんに技術的加工(熱入れ)を加えていただき、当日は16トラックのオープンデッキをお借りしての実習です。スピーカーからの音を聴きながらのインタープレイ、実習生のみなさんも、とまどったようでした。一部分を、順番に、全員で演奏したので、後の方の方ほど慣れてきて、演奏がこなれていきました。それにしても、オープンテープの音、いい音だなー、と思ったのは私だけだったでしょうか?
最後に、L. Ferrari:Clap(1991)、スピーカーから再生される、断片的な会話の間に、的確に譜面の演奏を入れ込んでいかねばならない曲でした。もちろん、初見では無理ですが、実際には、「言葉の音楽」を感じながらシンクロして行く必要があるので、とても高いレベルの感性と練習を要する曲でした。曲の面白さを皆さん感じ取っていたようです。
以上、「古典的なエレクトロニクスとピアノ」 作品の一例を実習しました。
“初めて見るオープンリールテープ”は、珍しかったようですが・・。テープを巻き戻しながら、「“巻き戻し” って言葉はここから来ているんです」と言ったら、「なるほどー」という反応をいただきました!

 

 

【庄野進によるリポート】

拡張されたピアノテクニックの現代的なものとして、20世紀に発展したエレクトロニクスを用いたものがある。今回はその初期の、今日では古典的となったエレクトロニクスを用いた作品を取り上げる。 

実習に先立って、初期のエレクトロニクスを用いた作品上演に関する問題点が説明された。エレクトロニクスの発展によって、今日では殆どがデジタル機器とデータに置き換わっており、再現には当時のアナログのハード機器を用意しなければならない。今回取り上げられた伊藤祐二の作品では、オープンリールに録音された音響と、当の機器が必要であるが、もはや生産されていない機材を調達し、音源を再生可能にするための困難がある。 

最初の実習曲はジャチント・シェルシ(1905-88の増幅されたピアノのためのAITSI』(1974)である。シェルシという作曲家は謎めいていて、共同作曲者がいたという説もある。精神を病み、その回復のために一音を聞くという作業に没頭したともいわれており、ある時期に一音を聞く作品が書かれた。AITSIはf音およびその周辺の数音、あるいはクラスターがピアノで演奏され、その音または和音あるいはクラスターの持続はペダルによって制御される一方、もう一人の奏者がマイクで拾った音にディストーションを掛ける操作を行う。ディストーションを施された残響の倍音変化を聞き取る作品である。実習では二人一組でこれらの操作が試みられた。この操作をピアニストが左足でスイッチを踏むことで行うことも可能。 

次の伊藤祐二のオープンリールのテープに録音された音源とピアノのための作品空間の詩学』(1983では、テープの進行に合わせてピアニストが演奏するもので、テープパートの楽譜とタイミングをとりながらピアノパートを演奏していく。30秒毎に区切りが引かれており、それを目安として演奏が行われる。530秒から830秒までの部分が実習された。 

最後はリュック・フェラーリ(1929-2005)のテープとピアノのためのCLAP(1991)が紹介された。これも予め録音された種々の発話のテープとリズミカルに反復される、ピアノのパッセージと組み合わされた作品である。カーゲルのために作曲された、シアトリカルな含意をもった曲で、楽譜に記された秒数表示が目安となる。受講生は、それぞれタイミングに苦心しながら取り組んでいた。