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ワークショップの記録

第三期 第3回「最新のライヴエレクトロニクスとピアノ~ 今井慎太郎氏を迎えて

日時:2019年12月22日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

ゲスト講師:今井慎太郎

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

前回の、「古典的なエレクトロニクスとピアノ」に続き、今回は、「最新のライヴエレクトロニクスとピアノ」と題して、今井慎太郎 国立音楽大学准教授を講師にお迎えして実施しました。
「ライヴエレクトロニクス」というものの概説から始まり、現場でのシステムの概説、セッティングと取扱いの概説(マイクスタンドの取り扱いや、ミキサーの概説まで!)を経て、コート・リッピの、ピアノとコンピューターのための「ミュージック」(1996)の実習を行いました。
IRCAM のシグナルプロセッシングワークステーション(リアルタイム、ディジタルシグナルプロセッサー)と、ミラー・パケットによって開発された MAX プログラム によって制作されたこの作品は、ピアノで演奏された音を、リアルタイムでプロセッシングして再生し、奏者はそれを聴きながら演奏を作っていくという、インタラクティブなライヴエレクトロニクスのあり方を確立した曲として、今回の実習曲となりました。
最後に、いくつかの質問を巡り、現在から今後の展開のあり方まで、興味深いお話しを聞くことができ、「3時間休憩なし!」 の、内容の詰まったワークショップとなりました。
今井先生、ありがとうございました。
今回も多くの方に聴講に来ていただき、ありがとうございました。

 

 

【庄野進によるリポート】

今回は、作曲、サウンド・アート、コンピュータ音楽デザイン(ソフトや音響やその他のシステムの構築)を専門とする、今井慎太郎氏を講師に迎え、ライヴエレクトロニクス作品を実習する。 

最初にライヴエレクトロニクスの定義と歴史に関する説明が簡単になされた。ライヴエレクトロニクスとは、ライヴ(人間)とエレクトロニクス(電子的手段による音)が含まれる音楽実践の総称であり、舞台上でリアルタイムに実践される電子音楽であり、クラシックの文脈にあるものを指す。 

ウンゲホイアー(Ungeheuer, 2013)によると、1)楽器とテープによる演奏、2)楽器演奏にある時間的、物理的限界の超克、3)リアルタイム・インタラクションの3つのフェーズがあり、エマーソン(Emmerson, 2007)によると、1)1950-80年の電子回路による音の変調、2)1980年代のMIDIによる電子楽器のリアルタイム操作、3)1990年代以降のPCによるリアルタイム音声信号処理という3つのパラダイムの移行があった。 

現在につながる動きは1974年に設立されたIRCAMであり、その所長であったP・ブーレーズの目標は、コンピュータによる楽器演奏音のリアルタイム変換であり、その成果は彼の『レポン』(1981-84/2005)である。その後、M・パケットによって開発されたMAXが、ライヴエレクトロニクスの共通言語となった。これを用いた最初の作品は、P・マヌリによるMIDIピアノとリアルタイム・エレクトロニクスのための『プルトンPluton』(1988-89)であり、その成立にはパケットが深く関わっていた。 

さて、実習にはコート・リッピCort Lippeのピアノとコンピュータのための『音楽』(1996)が提示された。その前に、Maxのプログラムについての解説がなされ、ついでマイクのセッティングの最の注意がなされた。マイクは単一指向性のもの、スタンドを立てるには、低音交差弦と中音域に向けて置くことなどの説明があった。また、ピアノとスピーカーの音は異質なので、ピアノ音をスピーカーから少し流すとなじむとのこと。ピアノパートとコンピュータ操作の2人一組で行われた。 

なお、実習後に質疑が行われた。エフェクトとの違いについては、コンピュータにより複雑なコントロールが可能なこと、自宅で作り込めるかということについては、ホールによって異なるので調性が必要とのこと、演奏とコンピュータ操作を一人でやった方が良いのかということについては、曲によるが、この曲は操作が一つの演奏なので2人が良いとのことであった。 

最後にMaxの可能性として、オ以外の別の領域での例が言及された。即ち、映像やインスタレーションデザインの使用、ヴィジュアル・アートではフィードバックが容易ナノで応用されている。あるいはドローンの軌跡をMaxで制御したり、渋谷慶一郎のアンドロイド・オペラでの、アンドロイドの動きをMaxで制御するなどの試みがある。 

しかし、問題もある。これは、Maxに限らないが、OSが変わることによって、プログラムが作動しなくなるという危険性をもつということだ。