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ワークショップの記録

第三期 第5回「ピアノに物を入れる〜Surface Preparation 塩見作品のコンセプチュアルな用法

日時:2020年2月2日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

今回は、“ピアノに物を入れる”と題して、弦の上に物を置く“surface preparation”を実習。
前半は、塩見允枝子さんの“フルクサス・メモリアル・サーヴィス”を実習。
ピアノの中に、順次、ビー玉を入れていきます。その為のピアノの準備の実際と、実演を何通りも実習しました。締めくくりに、その聴衆参加ヴァージョン“グランドピアノの為のフォーリング・イヴェント”(亡くなったフルクサスのメンバーの追悼のための作品)を、聴講の方にもご参加いただいて演奏しました。なかなか素晴らしいパフォーマンスとなりました。(もっと大きなピアノで、もっと多人数で、もっと多くのビー玉が使われれば、より効果があったと思います。)
後半は、中野和雄さんの“あとがきTrailer for prepared piano solo”を実習。様々な素材による surface preparationは、とても難しく、皆さん、苦労しての試行錯誤でした。
最後に(個展前のリハーサルから駆けつけてくださった)作曲者の中野さんから、作品のコンセプトと、それに関してsurface preparationがどのような役割を担っているか、大変興味深いお話しを聞くことができました。
今回のワークショップでは、やってみなければわからない様々な技術と共に、拡張されたピアノ奏法が、単に、音色的な拡張だけでなく、様々なコンセプトと深く結びついて作品となっていることを深く体験できたと思います。

 

 

【庄野進によるレポート】

今回はピアノの内部でビー玉を使って音を出す奏法を実習する。用意された4種類の大きさのビー玉多数を使い弦の上に落とす、転がす等を行う。そのために予めハンマー、ブレイス等をプラダンでプロテクトしておく。プラダンはプラスティックのクリップとゴムで固定する。また音響孔にはフェルトを詰めてプロテクト。ただし、音質を保持するためには網を置いた方が良いかもしれない。受講者はビー玉を弦に沿って転がす、弦を横切って斜めに転がす、一個ずつ、あるいは同時に複数のビー玉を落とす、転がす、あるいは弦を擦る、ミュートして弦を叩く、ハンカチの上に落とすなど、様々に音を出す試みを行った。ピアノの弦は駒によって持ち上げられてダンパー方向に傾斜しているが、今回は傾斜がきついので、弦に置いた時ゆっくりビー玉が転がるよう、鍵盤側の脚の下に板を挟んで調整してあった。 

次いで塩見允枝子の『フルクサス・メモリアル・サーヴィス』(1994/2014)(G・マチューバスを偲ぶ作品)が取り上げられた。追悼の儀式出あることが告げられ、中秋にビー玉を渡し、献花のように弦の上に落下させる。その間ピアニストは良く知られた曲を通常通りの奏法で演奏する。今回はショパンのノクターン、パッヘルベルのカノン、フォーレのレクイエム、シューマンのトロイメライが演奏された。 

続いて『グランドピアノのためのフォーリング・イヴェント』(1991/98)も取り上げられた。『フルクサス…』の偶発的オブリガートとしてのビー玉の落下を伴う、観衆参加ヴァージョン。ピアノは井上郷子が担当し、乱数表でビー玉の工数を決めて、受講生も聴講しているものもすべてが参加して行った。 

弦上のプリパレイションの作品として、中野和雄の『Trailer for prepared piano』(2018)が取り上げられた。この曲では、低音域にスポンジ、中音域に竹ひご、高音域にくしゃくしゃにしたアルミフォイルを載せる。スポンジによって弦の振動が抑制され、竹ひごは振動で動いて別の振動を生み、アルミフォイルは振動して弦の振動と重層した振動となる。面白い響きならその音を聴き込み、テンポやリズムが即興的な演奏となる。後半にはペダルで高音域の響きのドローンとなる。プリパレイションの響きの偶然英と戯れる曲であると作曲家自身の解説があった。実習の後、質疑応答があった。これら以外のものを試みたかという質問にはプラスティックのチェーンを試したという解答。ある音は元のままの音で、不均等になってしまうがという問いには、それはそれで楽しむべきという回答。楽譜の指示とは異なるとの問いには、実際の楽譜には3段に分けてプリパレイションを指示してあり、配布されたものとは異なるという回答であった。 

 

 

 

※この後に予定されていた、「第三期受講生によるコンサート」は、Covid-19 のパンデミックにより中止となり、2020年9月に、「第三期、第四期受講生によるコンサート」として合わせて実施。