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ワークショップの記録

第四期 第2回「Bowed Piano(ボウド・ピアノ)

日時:2020年8月23日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

ゲスト作曲家:伊藤祐二、星谷丈生、後藤天

 

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

前回に引き続き、今回も三人の作曲家にこのワークショップの為の練習曲を書きおろしていただいての実習でした。
星谷丈生さん、後藤天さん、そして伊藤祐二の三人による三作品は、井上郷子講師が、なるべく多様なタイプの曲になるように考えて委嘱したとおり、とても興味深い三曲となりました。受講生の皆さんは、その点でも得るところが多かったと思います。
しかしこれらの作品がとても多様で興味深いがゆえに、コロナ対応のために時間が従来の半分となっているのが本当に残念です。
今回は、Bowed Piano の実習でした。鳴らすことそのものは難しくありませんが、良い音で、ちゃんとコントロールする、となると、簡単ではなく、受講生の皆さんも苦労していました。
また、bow の数が多くなると、その処理も難しく、当たり前ですが、やはり経験と工夫、練習が必要です。
それでも、時に、その魅力的な世界がちらりと感じられる瞬間があり、恐らく、多くの受講生が、これらの曲をきちんと演奏できた時の世界を垣間見ることができたと思います。

 

 

【庄野進によるレポート】

伊藤祐二、後藤天、星谷丈生の3名の作曲家による書き下ろしのbowed pianoのための練習曲の実習 

今回は、A・ショックリー氏が紹介した釣り糸と松脂を使用する。たくさんのピアノ弦に実施すると演奏が難しいことが分かった。また三浦氏より、ライトがボウド・ピアノの奏者に当って汗をかき、それがピアノに垂れてしまう危険性について指摘があった。 

最初の伊藤作品『etude』は、鍵盤の担当者1名とボウド・ピアノ担当の2名の奏者によって演奏されるが、今回はボウド・ピアノについては12の音を5,6名の実習生が担当した。2名での演奏はかなり難しそう。曲は、リズムによって様々な立ち上がりをする、独立した音の響きの連なりからなる。前半部分では通常の弾奏により、曲の途中から弓奏音が加わり始め、同音を弾奏と弓奏のユニゾゾンで弾く音も含め、最後に弓奏のみとなって終わる。ボウド・ピアノの弓奏については、きれいな音をだすことが難しく、また音出しのタイミングをとるのも難しいようだった。また、ピアノ弦のどの辺りを弾くかにより音色が異なるので、注意が必要である。 

次の後藤作品『Fisの練習』は、2名のボウド・ピアノ奏者、1名の鍵盤担当奏者、1名の弦のハーモニクスを操作する奏者の4人のアンサンブルのための練習曲。タイトルが示すように、fis音を素材とした曲となっている。最低音域のFisはゴムでミュートされている。予め全ての音域のfis音を抑えてからソステヌートペダルを踏み、曲の間踏み続ける。ボウド・ピアノ1のパートはfis2音がクレッシェンド、デクレッシェンド等の表情をつけて演奏される。ボウド・ピアノ2はfis音を同様に演奏する。ハーモニクスのパートは、種々の音域のfis音の弦長の1/2, 1/3, 1/4の場所に触れることでハーモニクスを出す。鍵盤担当奏者は種々の音域の短いfis音を弾く。各パート共、1段を30秒程度で演奏するものとし、鍵盤担当のみはストップウォッチで30秒を計り、それぞれの段の入りを示すために、拳で鍵盤以外の場所を打つ。 

星谷作品は1〜8人の奏者のための『虹の練習曲』。彼の他の曲同様、フレージング、タッチの微妙な加減、強弱の表現が重要な一を占める。それ以外は不確定なまま奏者に委ねられる。楽譜は全部で3つのパートに分かれており、それぞれのパートは、主要パートの五線と影となる五線sからなる。第1パートは主要五線がオレンジ色で、通常の奏法で演奏され、影の五線は黄緑色で、通常の奏法でも任意の内部奏法でも演奏可。第2パートは主要五線が紫色で、通常の奏法により、影の五線は黄色で、通常の奏法でも任意の内部奏法でも演奏可。第3パートは、主要五線は五線は水色で、通常の奏法と、通常の打鍵後任意の音をボウド・ピアノで演奏。影の五線は緑または紫色で、通常の奏法および通常の打鍵後任意の音をボウド・ピアノで奏する。その他詳細な楽譜の解読法が記されており、色の異なる五線がずらされて重ねられ、音符を共有しながら主要と影の五線として提示されている。ずれによって音高が異なって解釈される。その他即興に委ねられる部分もあり、複雑な記譜法となっている。