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ワークショップの記録

第四期 第4回「美術家の視点から

日時:2020年10月25日(日)

講師:井上郷子、伊藤祐二、三浦明道

ゲスト講師:久保田晃弘

 

【講師・伊藤祐二によるFacebookでの報告】

多摩美術大学情報デザイン学科教授の久保田晃弘氏を講師にお招きし、「ピアノ音楽は、いかにして拡張可能か」 というテーマでお話しいただきました。
「インターフェイス」 という言葉をキーワードとして、様々なインターフェイスを設定することで、あらたな拡張可能性が現れる、その一例として、久保田さんが長年取り組んでおられる 「ライブ・コーディング」 についてお話しいただきました。 さらに、井上郷子のピアノと久保田さんのライヴ・コーディングによる、M.フェルドマンの 「パレ・ド・マリ」 を用いたパフォーマンスを、例示していただきました。
レクチャーの過程で、すずえり さん製作の、ピアノの鍵盤に取りつけるソレノイドのシステムを用いて、PCで鍵盤を「演奏」する例なども示されました。又、物理モデリングによる仮想ピアノの可能性についても紹介され、さらにインターフェースと抽象の森へと誘われるのでした。
受講生の皆さんも、普段のワークショップと若干異なる視点からのお話しに、少々とまどったり、強く興味を引かれたり、様々な(しかしリアルな)反応が見られました。
それは、いわゆる 「音楽家」 に対してだけではなく、ホール管理者、ピアノ管理者の方々にも、音楽表現と楽器に関わる自らの(様々な)概念の再検討を迫るものであったと思います。
久保田さんにお話しいただいた意義は、大変大きかったと思います。

 

 

【庄野進によるレポート】

今回は、多摩美術大学情報デザイン学科教授久保田晃弘氏を講師として、「如何にピアノ音楽は拡張可能か―インターフェイスからみたピアノ」というテーマで行われた。ちなみに久保田講師は、東京大学工学部船舶工学科、同大学院工学系研究科船舶工学専門課程の博士課程修了という経歴を持ち、また本ワークショップの第1期の参加者でもあった。音楽畑出身ではない視点から、ピアノの拡張可能性を探るユニークな試みが紹介された。 

情報デザインという専門領域とも関係して、コンピュータがどう物理的なピアノと関係し合うかを、「インターフェイス」という概念を重要なものとして考えようとする。ここでいうインターフェイスとは、異なる種類のものを結びつける時の接触部分、コンピュータと周辺機器やプログラムを接続する部分、コンピュータと人間との接触部分(ヒューマン・インターフェイス/ユーザ・インターフェイス)。ピアノは鍵盤というインターフェイスをもち、発音部分につながっている。ピアノ演奏では、楽譜というインターフェイスによって譜読みと演奏が行われる。 

これらを前提に、ライブ・コーディングという、プログラム言語を直接操作し、その場で実行することで、音や映像を生成するパフォーマンスを考える。例として、Alex McLeanの『love on DOMMUNE Tokyo. 14 Nov 2018』を取り上げる、これはパフォーマンスとインターフェイス・デザインとしての作曲と密接に結びついている。言語の設定としてTidalCyclesというパターンを柔軟に作るものが用いられおり、セリエル(多パラメータ)な特性を持つ。具体的にはMODART社のpianotech 6という、物理モデリングによるピアノを使う。これはリアルタイムでピアノの大きさ、ダンパーのノイズ、調律等などを変えることができる。例として、リゲティの「エチュード」をもとに、 

text edit01 

 setcps1.0__60bpm 

p”basic”$n”[1]”#5”piano”… 

というプログラムの[1]の部分の数値をリアルタイムで変化させるなどの操作を行うことによって、設定されたピアノの物理モデルのパラメータを変化させるという演奏になる。 

テリー・ライリーの『Keyboard Study』を扱った例では、リアルタイムでの音の書き換えによって、異なったパターンが生成する。 

またフェルドマンの『パレ・ド・マリ』を元にしたものは、鈴木えりさんのシステムで実ピアノを鳴らすものと組み合わされて実行された。 

今回は、実習というよりは講義であったが、コンピュータ上に構築された物理モデルとしてのピアノをリアルタイムで操作するという、これまでにない拡張されたピアノの可能性が示され、興味深いものがあった。